おんぶ紐を作った背景

2019年に抱っこ紐、2020年におんぶ紐の販売を開始しました。なぜ抱っこ紐やおんぶ紐を作ることになったのか、長くなりますが、抱っことおんぶへの熱い想いといきさつを紹介させていただきます。 

※抱っこ紐micoシリーズは、各種メーカーからストレッチ性のある優れたけ抱っこ紐が発売されるようになったことから、役目を終えたと判断し、2023年を持って販売を終了しました。

抱っこがつらかった新米ママ

2008年に第1子を出産したとき、私は赤ちゃんに触れたこともない新米ママでした。産院で我が子を前におろおろする私は、助産師さんに「しっかりして!お母さんがやるのよ」とカツを入れられたくらいです。

 

出産に向けて2種類のスリングを買って準備していました。ひとつは長さ調整ができない布だけのタイプ、もうひとつはクッション入りの、長さを調節できるタイプ。でも、写真では心地よさそうなのに、どちらもちっとも赤ちゃんを上手に抱っこできませんでした。1日中、泣き止まない我が子を両腕で抱っこし続け、一緒に泣いたこともありました。

 

1ヶ月が過ぎて外に出られるようになると、すぐにベビーグッズの量販店に行き、いろいろな抱っこひもを見比べて、シンプルでおしゃれで外向き抱っこもできる、海外メーカーの抱っこ紐を買いました。

抱っこしたまま両腕を使うことができるようになり、着脱もしやすくパパとも兼用できてとても助かったのですが、赤ちゃんの重さのかかる首と肩がとても痛みました。結果、抱っこひもはあまり使わず、ベビーカーに乗せて移動するようになりました。

 

狭い電車やスーパーで舌打ちされたり、ベビーカーの上で泣きやまない我が子にこっちが泣きそうになったり。当時はJR川崎駅でさえ、エスカレーターもエレベータもどちらもなかったような時代。ベビーカーに赤ちゃんを乗せたまま、両手でかついで階段を上り下りしたものです。そんなことをしているうちに、両手首と10本の指すべてが腱鞘炎になってしまい、大好だったヨガも、痛くて手を付けないので、できなくなってしまいました。

人生を変えたエルゴとの出会い

長男が1歳を過ぎたころ、エルゴの大ブームがやってきました。

外を歩けばみんなエルゴ。男女で共用できるので、赤ちゃんを抱っこしたパパが街に増えました。見た目のゴツさや、お腹にベルトが食い込むところがちょっとな…とも思いましたが、試しにお店で試着してみました。すると、なんてラクなんでしょう!

 

それまでは歯を食いしばって肩の痛みに耐えながら抱っこしていましたが、エルゴは肩が痛くなりません。抱っこで過ごす時間は何倍にも増えました。

 

そして、エルゴはおんぶもしやすかったんです。

お下がりでもらったおんぶひもを持っていたんですが、どの紐をどうしたらおんぶできるのかよくわからず、使いこなせませんでした。でもエルゴならするりとおんぶができ、そのままずっとおんぶし続けられます。

 

エルゴに出会い、それまでつらかった抱っこが、難しかったお出かけが、大変ではなくなりました。移動距離も格段に伸びました。

 

「抱っこひもで、こんなにママの生活って変わるんだ!」と、抱っこひものすごさに気づきました。

エルゴのおかげで、上の子と一緒に不自由なく出歩くことができました。

旅行だってハイキングだって、おんぶできてしまえばラクラクです!


「抱っことおんぶって、すごくイイ!!」

長男が5歳半のときに次男を出産しました。

それまで一人っ子でママとのお出かけが大好きだった長男のために、次男は生まれてすぐに外に連れ出すことになりました。いちいちエレベーターを探すのが面倒なのでベビーカーはほとんど使わず、生後4ヶ月くらいまではインファントインサートを使い、いつもエルゴで抱っこしていました。

 

おんぶできるようになるともうこっちのもの。

長男と私の2人の趣味だった乗り物の旅にも次男をおんぶして連れて行きましたし、何よりも、「おんぶカメラマン」と呼ばれながら、次男を連れて仕事をすることができました。

自宅で現像作業をするときも、いつも抱っこかおんぶ。1日中、次男を体にくっつけていました。

エルゴがなければ、子育てをしながら仕事をし続けることはできなかったと思います。


そして、いつもいつも次男を抱っこしおんぶしているうちに気づきました。

「いつもくっついていると、赤ちゃんの気持ちが伝わってきて、何を感じているかをすぐに感じ取ることができる」ということです。

 

ちょうどそのころ、さらしを使ったおんぶや抱っこを知り、私も子育てに取り入れました。私にさらしおんぶを教えてくれた方は、おむつなし育児を実践されていて、日本古来の子育ての良さを知っていました。その方の、「ベビーカーやベビーベッドなど、欧米型の子育てがおしゃれとされているけれど、便利な道具が増えたせいで、子育てはむしろ難しくなった面もある」ということばに共感しました。だって、狭い日本で、周囲に気を使いながらベビーカーを押すよりも、おんぶして動き回った方が気楽で速いもの。

きょろきょろと景色を眺めていた我が子が、背中や胸元で湿った寝息を立て始めたときの心地よさ、目を覚ました瞬間のかわいらしさ。私はおんぶと抱っこがどんどん好きになりました。

さらしおんぶ中。背中の次男もお気に入りのぬいぐるみをストールでおんぶしています。

いつもそばで私の仕事を見ていた次男は、おんぶとカメラが好きになりました。


再び感動!ボバラップとの出会い

次男の出産から4年半後の2018年10月に長女を出産したとき、上二人のときは産後の手伝いを頼めた母に手助けを頼むことができず、退院翌日からすぐにお弁当作りや家事をしなければなりませんでした。一方で、長男を出産してから10年のあいだに、私の体はずいぶん老けました。長男のときはなんてことなかった動作がしんどかったんです。

 

忙しくてベッドに赤ちゃんを寝かせる暇なんてありません。でもエルゴのインファントインサートは動きにくく、家事がしずらい。出産した助産院で助産師さんが使っていたスリングを購入して使ってみました。ところが、見た目にはかわいく好評だったのですが、荷重の偏りが身体にダイレクトに響きました。しばらく使用していると体中が痛みはじめ、行きつけの鍼灸院に行くと、骨格がゆがんでいると言われました。片方の肩が下がり、反対側の骨盤の関節がずれていました。

もっと快適に新生児を抱っこできるものはないかと探していたら、知人が「ボバラップ」を貸してくれました。このボバラップに、久しぶりに大感動しました。ボバラップは、5mの長い伸縮性のある布を体にぐるぐる巻きにして赤ちゃんを入れます。くたくたの赤ちゃんが胸元にぴったりとフィットして、まるで妊娠中に戻ったみたい。しかも体中にその重さが分散されて、どこも痛くないんです。「ええ!?なにこれ?」という感激でした。

 

10月に出産してすぐにやって来た冬休みに、上の子2人を連れてあちこち出掛けることができたのはボバラップのおかげです。「使う抱っこひもで、子育てはつらいものにもなるし楽しいものにもなる」と感じた私は、産後間もないママさんたちと抱っこひもの情報交換をしようと、「抱っことおんぶの交流会」をはじめました。また、そのころからkonnyをよく見かけるようになりました。さすがおしゃれな韓国の商品。私も気になって、SサイズとMサイズを購入しました。ほかにも「これは」と思うものを次々に買っては試してみては、「抱っことおんぶの交流会」で情報交換をしました。

「こんな抱っこひもが欲しい!」

「抱っことおんぶの交流会」は月に1度くらいのペースで開催し、いつも10人くらいのママさんが、生まれて間もない赤ちゃんを連れて来てくれました。私は10種類近くの抱っこ紐とおんぶ紐を持っていたのですが、私以上にいろいろな抱っこ紐おんぶ紐を持って来る方もいました。みなさん、「もっと赤ちゃんをラクに楽しく心地よく過ごせないか」と試行錯誤して来られたのですね。

 

交流会では私も知らなかったステキな抱っこ紐にたくさん出会えました。特に私が気に入ったのはポルバン。教えてもらってすぐに購入し、大活躍してくれました。葉山で作っている国産の抱っこひも「Sun & Beach」さんの抱っこひもも、日本人の体形にすっきりとフィットしてステキ。Apricaさんの「コアラ」も、私は使用したことがありませんが、エルゴにはない便利な機能があり、きっと使いやすいだろうと思いました。皆さん数種類の抱っこ紐を、そのときのライフスタイルに合わせて使い分けながら過ごしているようです。


交流会を開催するうち、あることを思うようになりました。それは、「最も心身ともに追いつめられる産後間もない時期に、心地よく抱っこできる抱っこひもがなくて困っている人が多い」ということです。

 

首や腰がすわり、エルゴやそのほかの抱っこひもがしっくりと使えるようになってしまえばだいぶ楽になりますが、それまでがとにかく辛い。当時毎月スタジオで開催していた「ママと赤ちゃんの撮影会」に来てくれる産後間もないママのなかにも、腱鞘炎の手首にサポーターをしたママや、1日中赤ちゃんを下ろせなくて疲れ切ったママがいました。

 

交流会ではボバラップも紹介しましたが、5mの布を巻く手間や、夏場は暑いといった点で、使うのを躊躇される方もいました。新生児から使えるいろいろな抱っこひもを使ってみたり、情報交換したりするうちに、私の中で「こんな抱っこひもがあったらいいのにな」と思うものが生まれました。

それは、さっと脱ぎ着できて、密着感が心地よくて、赤ちゃんも嫌がらずに入ってくれて、どこも痛くならなくて、ママ自身が「抱っこ大好き」って思えるような抱っこひも

 

「こんな形だったらどうかな」と、まずは自分用に手縫いで縫ってみました。それを見た知人が、「それすごくいいよ、商品化できるよ」と背中を押してくれ、抱っこひもを商品として作ってみようということになりました。

初めて手縫いで作った試作1号。ここからずいぶん改良しました。

写真教室で生徒さんが撮ってくれた写真です。

商品化はしませんでしたが、伸縮性のあるおんぶひもも作っていました。

micoで抱っこした上から上着を羽織るのが定番のお出かけになりました。


試作~横浜ビジネスグランプリ

試作を作ってみては縫い直し、ずいぶんたくさん布を買いました。

 

赤ちゃんがいてなかなかお店に行けないのでネットで買うのですが、届いてみて「う~ん、違うなあ」と思ったり。ニットの縫製の知識がなかったので、ミシン屋さんに問合せしながら、2台のミシンを買いました。幼稚園の夏休みに5歳の次男とポケモンスタンプラリーをしつつ、日暮里の生地問屋街に行ったこともありました。小さい子どもを一緒に連れて生地を選ぶのはホントに大変!

そうこうして何本も作っていくうちに「これがいい」と思える形になりました。サンプルを作り、募集に応えてくれたモニターさんに使ってもらいました。

娘を出産して1か月半後から撮影を再開し、5か月後の4月から本格的にフォトグラファーの仕事を再開しました。すると、仕事と母親業だけで忙しくて、抱っこひもは後回しに。だんだん「まぁいいか」と思い始めました。

 

そんなとき、モニターさんたちが「抱っこひもにすごく助けられた」とメッセージをくれたり、反対に、撮影に来てくれたママさんが赤ちゃんの子育てて大変な思いをしていたり。そのたびに「あの抱っこひもがあれば、きっと助かる人がいる」と思い直して、少しずつ進めてきました。

 

不安もありました。「私や友人が使うならいいけれど、商品として販売しても大丈夫なんだろうか」ということです。そこで数万円の費用をかけて、品質検査に出すことにしました。知人の勧めで、特許も出願もすることになりました。

 

続いて工場探しです。新潟にあるニット専門の工場に電話をしたところ、はじめは「抱っこひもはやったことがないから…」とのことでしたが、サンプルを送ると「あなたよくこんなの作ったわね、感心しちゃう、応援するわ」と、縫製を引き受けてくれました。錦糸町の本社には、サンプルに娘を抱いて訪問しました。

 

試作を作るための布代にミシン代、初回ロット生産のための費用、特許に、検査に…。商品を作るのって、なんてお金がかかるでしょう。そのうえ、日本製の布で日本で少量作ろうとすると、他国で安く大量に作られたものを安く手に入れることに慣れきった私たちの感覚では「高い!」と感じる金額になってしまいます。「商品化しようなんて思わなければ良かったな」とも思ったりもしました。

 

長女を産んで1年が経ったころ、「横浜ビジネスグランプリ」がビジネスプランの募集をしていることを知りました。ビジネスプランの締め切りは11月でしたが、10月11月は私は撮影が繁忙期。空いている時間はどこにもありません。でも「優勝賞金100万円」の文字につられて、夜な夜なビジネスプラン作りに取り掛かりました。

 

自信はまったくありませんでしたが、書類審査、セミファイナルと通過することができ、2月にランドマークで開催された「横浜ビジネスグランプリファイナル」に出場することに。「女性起業家賞」を受賞することができました。その際の記事がこちらに掲載されています。


おんぶ紐nicoと改良型mico

オリジナルの抱っこひもには、末っ子の娘の愛称「みーこ」から「mico」と名付け、2020年5月より販売を開始しました。まったく広告を出していないにも関わらず、北海道や九州、三重に四国など、全国からご注文をいただきとても嬉しかったです。しかし「micoに出会えてすごく良かった」「毎日何時間も使っています」といった嬉しいメッセージの一方で、「サイズが合わない」「これでサイズが良かったのかわからない」といったご意見もいただきました。

 

「直接試着して説明できなくても安心して使っていただくには、サイズ調整ができなければダメなんだ」と感じ、サイズ調整のできるmicoの商品づくりに取り掛かりました。

作っては使って直しての繰り返しです。

こちらはボツになった改良型micoのひとつ。

良く眠ってくれているけれど、売っても大丈夫なものを作るのは難しい…


もうひとつ商品づくりをはじめたのが、おんぶ紐です。私の子育てにはずっと、おんぶはなくてはならないものでした。

先述したさらしおんぶでは、赤ちゃんは昔ながらの兵児帯などのおんぶ紐のように、お母さんの肩越しにお母さんと同じ景色を眺め、スキンシップとコミュニケーションを取ることができます。背中で楽しそうに目をキラキラさせている子どもはとても愛おしいです。でも、さらしや兵児帯は、痛かったり、崩れやすかったり、見た目が恥ずかしかったりで、街ではほとんど見かけなくなりました。

 

一方、エルゴなどの腰ベルトタイプのおんぶ紐は、「ベビーキャリー」という名のとおり、赤ちゃんを荷物のごとく、何時間でもどこへでも運んでいけます。リュックのような形も、動きやすく便利なので、私もたくさん使いました。ただし、「赤ちゃんが荷物化する」ということは、「赤ちゃんが赤ちゃんらしくいられない」ということでもあります。両足を大きく開いて座った格好で背中にくくりつけられた赤ちゃんは、景色を眺めることもできず、退屈して良く眠ります。

 

「日本古来の1本紐によるおんぶと、輸入のベビーキャリーの良いところを合わせて、スキンシップとコミュニケーションを同時にとれるおんぶ紐。なおかつ、おしゃれでかわいいおんぶ紐があったら、お母さんは子どもとの時間をもっと楽しめるのではないかしら」

 

そんな想いから、「お話しできるおんぶ紐nico」を作り始めました。作っては使ってみるけど思うように心地よいおんぶにはならず、またしてもやり直しの連続…。でもモニター協力してくれる複数のママさんのご意見も取り入れながら、少しずつnicoの形がまとまっていきました。

おんぶ紐全体をストレッチ生地で作ってみたもの。伸びる生地のおんぶ紐は楽ではなくボツに。

ナイロンのキルティング生地で作ってみたときのもの。だいぶ形になってきましたがこれもボツ。

かわいくできたと思ったけど、ブロードやシーチングはリボンに向きませんでした。これもボツ。


これからも改良していきます

2008年に長男を出産してから15年間、私の生活はずっと子育てがそばにありました。

 

経験してきたことから思うのは、「抱っことおんぶの時間が長いほど、子育てはラク」ということです。「寝かそう」と抱っこし続けたときよりも、抱っこしながら忙しくやることに追われている日々の方がラクでした。そして私の子どもたちは3人とも、2歳半になるまえに自然におむつが外れました。一緒の景色を見て、お互いを尊重しながら一緒に過ごすことで、意思の疎通が図られたことが影響したのではないかと感じています。自分の子育てが正しいなんて全く思っていませんが、必要な時期にいつもくっついていることは、離れるべき時に離れられる下地を作ってくれるように感じています。

ある日新聞を読んでいると、「ゼロ歳児の赤ちゃんは、親に抱きしめられると安心することを心拍の変化から確認したと、東邦大や東京大などのチームが発表した論文が米科学誌に掲載された」という記事が目に留まりました。その記事によれば、お母さんに乳児を20秒間抱きしめてもらうと、73%の赤ちゃんで、副交感神経が優位になり、心拍の間隔が長くなったそうです。

 

また、理化学研究所の研究発表では、「抱っこして歩くと赤ちゃんの泣く量や心拍数が顕著に低下する」との研究成果を発表しています。

 

決してcolobockleの抱っこ紐、おんぶ紐がベストな抱っこひもだとは思っていません。ほかにも優れた抱っこひもはたくさんありますし、自分に合った抱っこひもは人によって違うと思います。でも、mico、nicoならではの抱き心地はきっと、赤ちゃんをいつも一緒にいる時間をもっとステキなものにしてくれると思います。

 

 

子育てがいちばん辛いのは、「どんなときも常に子どもと一緒にいなければならないこと」かもしれません。そのいちばんの大変さを、いちばんの楽しかった思い出に変えられたらいいな、というのがcolobockleのおんぶ紐、抱っこ紐を作り続けている理由です。

 

これからも改良を重ねながら、ひとつひとつのアイテムを丁寧に作り続けて行きたいと思っています。