開発の背景

私は5学年ずつ離れた3人の子どもを育てながらフォトグラファーをしてきました。

なぜ「mico」を作ることになったのか、背景と思いを紹介させていただきます。

抱っこがつらかった新米ママ

2008年に第1子を出産したとき、私は赤ちゃんに触れたこともない新米のママでした。

産院で我が子を前に途方に暮れる私は、助産師さんに「しっかりして!お母さんがやるのよ」とカツを入れられたくらいです。

 

出産に際し、2種類のスリングを買って準備していました。ひとつは長さ調整ができない布だけのタイプ、もうひとつはクッション入りの、長さを調節できるタイプ。でも、写真では心地よさそうなのに、どちらもちっとも赤ちゃんを上手に抱っこできませんでした。1日中、泣き止まない我が子を両腕で抱っこし続け、一緒に泣いたこともありました。

 

1ヶ月が過ぎて外に出られるようになると、すぐに赤ちゃん本舗に行き、いろいろな抱っこひもを見比べて、いちばんシンプルで抱っこしやすそうな、外向き抱っこもできる輸入の抱っこひもを買いました。

抱っこしたまま両腕を使うことができるようになり助かったのですが、この抱っこひもはものすごく、肩が痛くなりました。赤ちゃんの重さが肩だけに集中するので、痛くて長時間は着けていられません。結果、抱っこひもはあまり使わず、ベビーカーに乗せて移動するようになりました。

 

電車やスーパーで邪魔者扱いされたり、ベビーカーの上で泣く我が子にこっちが泣きそうになったり。当時はJR川崎駅でさえ、エスカレーターもエレベータもどちらもなかったような時代。ベビーカーに赤ちゃんを乗せたまま、お母さんたちは担いで階段を上り下りしたものです。そんなことをしているうちに、両手首と10本の指すべてが腱鞘炎になってしまい、大好だったヨガも、痛くて手を付けないので、できなくなってしまいました。

人生を変えたエルゴとの出会い

長男が1歳過ぎたころ、エルゴの大ブームがやってきました。

外を歩けばみんなエルゴ。男女で共用できるため、赤ちゃんを抱っこしているパパが街に一気に増えました。見た目のゴツさや、お腹にベルトが食い込むところがちょっとな…とも思いましたが、試しにお店で試着してみました。すると、なんてラクなんでしょう!

 

それまでの抱っこ紐では、歯を食いしばって肩の痛みに耐えながら抱っこしていましたが、エルゴは肩が一切痛くありません。エルゴを買うと、抱っこで過ごす時間は何倍にも増えました。

 

そして、エルゴはおんぶもしやすかったんです。

お下がりでもらったおんぶひもを持っていたんですが、どの紐をどうしたらおんぶできるのかよくわからず、使いこなせませんでした。でもエルゴならするりとおんぶができてしまい、そのままずっとおんぶし続けられます。

 

エルゴに出会い、それまでつらかった抱っこが、難しかったお出かけが、ちっとも大変ではなくなりました。移動距離も格段に伸びました。

 

「抱っこひもで、こんなにママの生活って変わるんだ!」と、抱っこひものすごさに気づいた瞬間でした。

エルゴのおかげで、上の子と一緒に不自由なく出歩くことができました。

旅行だってハイキングだって、おんぶできてしまえばラクラクです!


「抱っことおんぶって、すごくイイ!!」

長男が5歳半のときに次男を出産しました。

それまで一人っ子でママとのお出かけが大好きだった長男のために、次男は生まれてすぐに一緒に外を出あるく必要がありました。いちいちエレベーターを探すのが面倒で、生後4ヶ月くらいまではインファントインサートを使い、いつもエルゴで抱っこしていました。

 

おんぶできるようになるともうこっちのもの。

長男と私の2人の趣味だった乗り物の旅にも次男をおんぶして連れて行きましたし、何よりも、「おんぶカメラマン」と呼ばれながら、次男を連れて仕事をすることができました。

自宅で現像作業をするときも、いつも抱っこかおんぶ。1日中、次男を体にくっつけていました。

エルゴがなければ、子育てをしながら仕事をし続けることはできなかったと思います。


そして、いつもいつも次男を抱っこしおんぶしているうちに気づきました。

「いつもくっついていると、赤ちゃんの気持ちが伝わってきて、何を感じているかをすぐに感じ取ることができる」ということです。

 

ちょうどそのころ、さらしを使ったおんぶや抱っこを知り、私も子育てに取り入れました。私にさらしおんぶを教えてくれた方は、おむつなし育児を実践されていて、日本古来の子育ての良さを知っていました。その方の、「ベビーカーやベビーベッドなど、欧米型の子育てがおしゃれとされているけれど、便利な道具が増えたせいで、子育てはむしろ難しくなった面もある」ということばに共感しました。だって、狭い日本で、周囲に気を使いながらベビーカーを押すよりも、おんぶして動き回った方が気楽で速いもの。

きょろきょろと景色を眺めていた我が子が、背中や胸元で湿った寝息を立て始めたときの心地よさ、目を覚ました瞬間のかわいらしさ。私はおんぶと抱っこがどんどん好きになりました。

再び感動!ボバラップとの出会い

2018年の10月に長女を出産したとき、上二人のときは産後の手伝いを頼めた母に手助けを頼むことができず、退院した翌日からすぐにお弁当作りや家事をしなければなりませんでした。

一方で、長男を出産してから10年のあいだに、私の体はずいぶん老けました。長男のときはなんてことなかった動作がしんどかったんです。とくに、骨盤のゆるみは妊娠中からかなり響いていました。

 

忙しくて、ベッドに赤ちゃんを寝かせる暇なんてありません。でもエルゴのインファントインサートは動きにくく、家事がしずらい。出産した助産院で助産師さんが使っていたスリングを購入して使ってみました。ところが、見た目にはかわいく好評だったのですが、荷重の偏りが身体にダイレクトに響きました。しばらく使用していると体中が痛みはじめ、いつもの鍼灸院に行くと、骨格が大きくゆがんでいると言われました。片方の肩が下がり、反対側の骨盤の関節がずれていました。

 

もっと快適に新生児を抱っこできるものはないかと探していたら、知人が「ボバラップ」を貸してくれました。このボバラップに、久しぶりに大感動しました。

ボバラップは、5mの長い伸縮性のある布を体にぐるぐる巻きにして赤ちゃんを入れます。くたくたの赤ちゃんが胸元にぴったりとフィットして、まるで妊娠中に戻ったみたい。しかも体中にその重さが分散されて、どこも痛くないんです。「ええ!?なにこれ?」という感激でした。

 

10月に出産してすぐにやって来た冬休みに、上の2人を連れてあちこちで掛けることができたのはボバラップのおかげです。「使う抱っこひもで、子育てはつらいものにも楽しいものにもなる」と改めて感じた私は、産後間もないママさんたちと抱っこひもの情報交換をしようと、「抱っことおんぶの交流会」をはじめました。

「こんな抱っこひもが欲しい!」

「抱っことおんぶの交流会」には、いつも10人くらいのママさんが、生まれて間もない赤ちゃんを連れて来てくれました。

もともと、マタニティフォトやニューボーンフォトを撮影しており、2019年4月からは生後12ヶ月までの赤ちゃんとママを対象にした「ママと赤ちゃんの撮影会」も毎月していたので、撮影のお客さまもたくさん来てくださいました。

 

交流会ではステキな抱っこひもにたくさん出会えました。特に私が気に入ったのはポルバン。教えてもらってすぐに購入し、大活躍しています。葉山で作っている国産の抱っこひも「Sun & Beach」さんの抱っこひもも、日本人の体形にすっきりとフィットしてステキ。Apricaさんの「コアラ」も、私は使用したことがありませんが、エルゴにはない便利な機能があり、きっと使いやすいだろうと思いました。

皆さんいくつかの抱っこ紐を、そのときのライフスタイルに合わせて使い分けながら過ごしているようです。


交流会を開催するうちに思ったのは、「最も心身ともに追いつめられる産後間もない時期に、心地よく抱っこできる抱っこひもがなくて困っている人が多い」ということです。

首や腰がすわり、エルゴやそのほかの抱っこひもがしっくりと使えるようになってしまえばだいぶ楽になりますが、それまでがとにかく辛い。

「ママと赤ちゃんの撮影会」に来てくれる産後間もないママのなかにも、腱鞘炎の手首にサポーターをしたママや、1日中赤ちゃんを下ろせなくて疲れ切ったママがいました。

 

交流会ではボバラップも紹介しましたが、5mの布を巻く手間や、夏場は暑いといった点で、使うのを躊躇される方もいました。新生児から使えるいろいろな抱っこひもを使ってみたり、情報交換したりするうちに、私の中で「こんな抱っこひもがあったらいいのにな」と思うものが生まれました。

それは、さっと脱ぎ着できて、密着感が心地よくて、赤ちゃんも嫌がらずに入ってくれて、どこも痛くならなくて、ママ自身が「抱っこ大好き」って思えるような抱っこひも

 

「こんな形だったらどうかな」と、まずは自分用に手縫いで縫ってみました。

それを見たメーカー勤務時代の知人が、「それすごくいいよ、商品化できるよ」と背中を押してくれ、抱っこひもを商品として作ってみようということになりました。

初めて手縫いで作った試作1号。ここからずいぶん改良しました。

再開したフォトレッスンで生徒さんが撮ってくれた写真です。

商品化はしませんでしたが、伸縮性のあるおんぶひもも作っていました。

micoで抱っこした上から上着を羽織るのが定番のお出かけになりました。


試作~横浜ビジネスグランプリ

試作を作ってみては縫い直し、ずいぶんたくさん布を買いました。

 

赤ちゃんがいてなかなかお店に行けないのでネットで買うのですが、届いてみて「う~ん、違うなあ」と思ったり。ニットの縫製の知識がなかったので、ミシン屋さんに問合せしながら、2台のミシンを買いました。

夏休みに5歳の次男とポケモンスタンプラリーをしつつ、日暮里の生地問屋街にも行きました。

そうこうして何本も作っていくうちに「これがいい!」と思える形になりました。サンプルを作り、13人のモニターさんに使ってもらいました。

娘を出産して1か月半後から撮影を再開し、5か月後の4月から本格的にフォトグラファーの仕事を再開しました。すると、仕事と母親業だけで忙しくて、抱っこひもは後回しに。だんだん「まぁいいか」と思い始めました。

 

そんなとき、モニターさんたちが「抱っこひもにすごく助けられた」とメッセージをくれたり、反対に、撮影に来てくれたママさんが赤ちゃんの子育てて大変な思いをしていたり。そのたびに「あの抱っこひもがあれば、きっと助かる人がいる」と思い直して、少しずつ進めてきました。

 

不安もありました。「私や友人が使う分にはいいけれど、商品として販売しても大丈夫なんだろうか」ということです。そこで数万円の費用をかけて、品質検査に出すことにしました。知人の勧めで、特許も出願もすることになりました。

 

続いて工場探しです。新潟にあるニット専門の工場に電話をしたところ、はじめは「抱っこひもはやったことがないから…」とのことでしたが、サンプルを送ると「あなたよくこんなの作ったわね、感心しちゃう、応援するわ」と、縫製を引き受けてくれました。錦糸町の本社には、サンプルに娘を入れて訪問しました。

 

試作を作るための布代にミシン代、初回ロット生産のための費用、特許に、検査に…。商品を作るのって、なんてお金がかかるでしょう。そのうえ、日本製の布で日本で少量作ろうとすると、他国で安く大量に作られたものを安く手に入れることに慣れきった私たちの感覚では「高い!」と感じる金額になってしまいます。「商品化しようなんて思わなけえば良かったなぁ」とも思ったりもしました。

 

長女を産んで1年が経ったころ、たまたま「横浜市ビジネスグランプリ」がビジネスプランの募集をしていることを知りました。ビジネスプランの締め切りは11月でしたが、10月11月は私は撮影が年1番の繁忙期。空いている時間はどこにもありません。でも「優勝賞金100万円」の文字につられて、ビジネスプラン作りに取り掛かりました。

 

自信はまったくありませんでしたが、書類審査、セミファイナルと通過することができ、2月にランドマークで開催された「横浜ビジネスグランプリファイナル」に出場することに。「女性起業家賞」を受賞させていただくことができました。その際の記事がこちらに掲載されています。

 

賞金は30万円。特許出願に30万円、初回ロットにも30万円かかっていましたので、ありがたい賞金でした。


micoはこれからも改良していきます。

オリジナルの抱っこひもには、末っ子の娘の愛称「みーこ」から「mico」と名付けました。

 

ある日新聞を読んでいると、「ゼロ歳児の赤ちゃんは、親に抱きしめられると安心することを心拍の変化から確認したと、東邦大や東京大などのチームが発表した論文が米科学誌に掲載された」という記事が目に留まりました。

 

その記事によれば、お母さんに乳児を20秒間抱きしめてもらうと、73%の赤ちゃんで、副交感神経が優位になり、心拍の間隔が長くなったそうです。「micoで抱っこすると赤ちゃんが泣き止むのはこのためだ」と確信しました。

 

私は決して、micoがベストな抱っこひもだとは思っていません。ほかにも優れた抱っこひもはたくさんありますし、自分に合った抱っこひもは人によって違うと思います。でも、micoにしかない心地よさはきっと、赤ちゃんをいつも一緒にいる時間をもっとステキなものにしてくれると思います。

 

micoが、赤ちゃんに寄り添うママにとって、少しでも助けになるものになってくれたら嬉しいです。