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パンを焼く人とトイレを焼く人

今週、私は5人の方の取材をしています。

 

どの方も、それぞれの分野で長い時間をかけて仕事に向き合ってきた人たちです。

何をしている人なのかを理解するだけでも大変なのですが、その背景にある考え方や哲学が、また面白い。

聞けば聞くほど深くて、毎回必死でついていっています。

 

今日はパンを焼く人を取材していました。

オーブンの中でオレンジ色の炎に包まれながら膨らんでいくパン生地を見ていたら、20年以上前の取材のことを思い出しました。

 

当時私は、ある住宅設備メーカーの仕事を担当していました。

全国にある工場を訪ね、写真を撮り、工場長や現場の方々に話を聞き、その内容をホームページの記事にする仕事です。

 

北海道から九州まで。

大きなカバンにボイスレコーダーとパソコン、少しの着替えを詰め込み、一度家を出ると何日もかけて工場を回りました。

 

昼間は取材。

夜はホテルで原稿を書く。

聞いたことを忘れたくないので、当日中にベースは書いてしまおうとしました。

 

楽しくて、自分の体のことを忘れていて、

気づけば全身に蕁麻疹が出た日もありました。

 

特に記憶に残っているのが、トイレを焼く窯です。

大きく長い焼成窯の中を、並んだ便器がゆっくりと進んでいく。

炎に包まれながら焼き上がっていく光景は圧巻でした。

あれから20年以上、私はずっと便器が気になります。

 

取材を重ねるうちに、私はトイレの製造工程にものすごく詳しくなりました。

その後、取材で得た知識をもとに、ショールームでお客様にお渡しする冊子も作りました。

 

全工場のレポートを掲載したホームページはすでにリニューアルされ、当時の記事はもう残っていません。

でも、冊子は今も手元にあります。

結婚をして、

子どもが3人生まれて、

引っ越しも何度かしました。

でも、冊子は捨てませんでした。

あのときのことを、覚えていたかったからです。

 

担当者の方とふたりで全国の工場をまわって、とても楽しかった。

でも、取材は簡単ではありませんでした。

私が、

「これはどうしてこうなっているんですか?」

「ここが面白いですね!」

と尋ねても、

工場長たちはたいてい、

「そんなの、普通ですよ」

と答えるのです。

 

こちらから見れば驚くような工夫や技術なのに、本人たちにとっては当たり前すぎるようでした。


今日取材していたパンを焼く人も同じでした。

 

作業が、とにかく速い。

生地が一瞬で形を変え、

何かを確認し、

次の工程へ進んでいく。

 

私は何度も、

「あ、ちょっと待って」

「今、何を見たの?」

「それ、何をしたの?」

と呼び止めてしまいます。

 

すると、

「え?どれ?」

と苦笑い。

その「どれ?」が、魅力的なんです。

 

毎日毎日。

何年も何十年も。

積み重ねてきた人の作業は、美しい。

 

そしてその美しさに、本人は気づいていないことが多いように思います。

 

今日も私は、誰かの「普通」を見せてもらいました。

その人にとって当たり前になってしまった、普通ではない魅力です。

 

すごく素敵だから、誰かに伝えたくてたまらない。

20年前も、今も。

 

だから取材は、やめられません。