ママたちが本来持っている力を社会とつなぐ「Malia」という場
はじめに│「Malia」とは?
Malia Productionという会社があります。
『ママの「力」を、社会の「価値」に』をミッションに掲げ、湘南、横浜、札幌、福岡、大阪、東京など、各地で「ママによるママのためのマガジン Malia」を発行し、イベント開催や、スキルを持つママメンバーの仕事のマッチングなど、幅広く活動を展開しています。
創業7年目となったMaliaの活動は、ひとりのママの想いからはじまりました。
「ずっとママになりたかった。夢がかなったはずなのに、涙が出てくる日があった」
そんな言葉からはじまった、Maliaが生まれたきっかけのインタビュー。
「はじまりの人」4人目では、フリーマガジン「Malia」を立ち上げ、現在は100人を超えるメンバーを要するまでになった、株式会社Malia Production代表の柴田幸美さんにお話を伺いました。
01|華やかな印象の奥にある本当の姿
湘南や横浜エリアで年に4回発行されるフリーマガジン「Malia」の第一印象は、「華やか」です。
ファッショナブルなママと子どもが、おしゃれな空間で楽しそうに過ごす写真。
ファッション誌のようで、キラキラしています。
Instagramにも、ランチ会の様子やホテルでの「Malia party」など、華やかなママたちの笑顔が並びます。
ママたちのエネルギーを集め、
そのエネルギーを届けたい企業の協賛を集め、
事業として成長させていく。
その姿だけを見ると、とても華やかで順調な活動に見えます。

でも、「どうしてMaliaをはじめたのか」を尋ねたとき、
そこにあったのは、表に見える印象とは異なる景色でした。
02|ママになりたかったのに、涙が出る
柴田さんの夢は、「ママになること」でした。
21歳で第一子を出産。
念願だったはずの生活が始まります。
しかしそこには、想像していたものとは違う現実がありました。
一日中、子ども以外の誰とも話さないような日が続き、
社会との接点がなくなり、
自分の存在がなくなっていくような感覚。
幸せなのに、なぜか苦しい。
不満はないのに、満たされない。
「ママになりたかったのに、なぜか涙が出てくる」
言葉にならない違和感が、ずっとありました。
03|空白という違和感
その違和感の正体は、再就職の場面で明らかになりました。
子育てが少し落ち着いてきたのを機に、もういちど働こうとしたとき、
履歴書の「空白」を指摘されたのです。
「この期間はなにをやっていたの」
子育てをしていたのだけど、それを「休んでいた」と捉えられてしまった。
仕事をしていたときよりもむしろ、
誰かのために一生懸命に自分を費やした、かけがえのない時間。
それが社会の評価軸では「何もせずに休んでいた時間」として扱われてしまう。
この経験は焦りとなり、柴田さんは家族の状況に合わせ仕事を調整しつつも、
「いつでも社会から必要とされる人材」でいられるよう、
スキルUPや資格取得を重ねました。
04|「おかしい」という問い
そんな日々のなかで、柴田さんはある問いを持つようになります。
きっかけは、児童虐待や、産後うつのニュース。
「これは母親の性格の問題なのだろうか?」
違うんじゃないか、という感覚。
子どもに恵まれ、幸せなはずのママ。
周囲も、自分も、きっと幸せだと思っている。
それなのに、追い詰められ、自分を見失い、
最愛の我が子に手をかけてしまう。
その背景には、どんな要因があるのだろうか。
「人って、自分で自分のことがわかるわけではなくて、誰かと話をするなかで、自分がどんな人間なのかがわかるものだと思うんです」
しかし、出産した後は社会と切り離され、それまでの生活が一変する。
夫の帰りが遅かったり、
話せる人がいなかったり。
子どもから目を離せず、
自分らしいこともできず、
だんだん自分がどんな人間なのかも、わからなくなっていく。
さらに、社会が「育児中」という役割と、その人の能力を、
切り分けずに評価してしまう。
自分以上に優先するべき存在がいることを、
能力がないとみなしてしまう。
「ママになる前は、学校で生徒会長をやっていたとか、仕事で活躍していたとか、それぞれに自分らしさを持っていたはず。
なのにママになったとたん、仕事をしている人たちに引け目を感じてしまう。
どうして子育てしているだけで、社会で肩身が狭いように感じてしまうんだろう」
ママの努力が足りないんじゃない。
おかしいのは社会の仕組みや環境の方ではないのだろうか。
柴田さんのなかに「おかしい」という、違和感が募っていきました。
そんなある日、たまたまつけたテレビで、芸能人女性がクラウドファンディングで児童保護施設を立ち上げる取り組みを目にしました。
「専門とは違う分野で、違和感を解決しようとかたちにしている人がいる姿をみて、
私にも何かできるんじゃないか、と思ったんです」
「私だったら何ができるか」と考えたとき、
柴田さんの中に浮かんだのは、「雑誌」でした。
05|Maliaのはじまり
幼い子どもたちと過ごしていた柴田さんは、
子どもたちがお昼寝をしている静かな時間に、雑誌をめくることを楽しみにしていました。
まだスマートフォンも普及していなかった頃。
雑誌や地域の冊子、通販カタログをめくる時間は、
わずかな時間にも「わくわくした気持ち」を呼び起こしてくれました。
「雑誌をつくろう」
あのときの自分と同じように、
孤独の中にいるママたちに、少しでもわくわくする時間を届けるために。
そして、雑誌をつくることでママたちが本来持っている力を、社会とつなぐために。
柴田さんの雑誌づくりが、はじまりました。

最初の一歩は、SNSでした。
Instagramに作ったばかりのアカウントで「#湘南ママ」と検索し、
見ず知らずのママたちにDMを送りました。
送ったのは、自分が作りたいものの構想をまとめた資料のスクリーンショット。
「こういうものを作りたいから話を聞かせてほしい」という呼びかけに、15人のママが応じました。
そして、最初のランチ会が開かれます。
柴田さん自身は、編集の仕事をした経験はありません。
しかしカメラマンやライター、編集、営業といった役割を、
「本来高い能力を持ちながら発揮する場のないママたち」に依頼することで、
制作体制を整えていきました。
また、見た目や世界観には徹底的にこだわり、
創刊の告知の段階から、「ときめく世界観」を大切にしました。
そして、まだMaliaのかたちもできていないのにも関わらず地域の企業やお店に営業を行い、
創刊号からスポンサーのいる状態で発行することを実現しました。

06|わくわくという原動力
経験も人脈もないのに始めること、
まだかたちになっていないものを営業することは、怖くなかったのでしょうか。
そう尋ねると、笑顔とともにこう答えてくれました。
「純粋に、いいものだから見て!って思っていた(笑)」
あれこれ考えてできない理由を並べれば、不安があって当然の状況です。
それでも、
「自分が喜ぶことは、みんなも喜ぶと思っている」
と笑います。

お金を集める、メンバーを集める、という目的の前に、
「本当にいいものだから見てほしい」という気持ちがある。
だからこそ、本当に自分が納得できる、
わくわくできる、
自信を持って見せられるレベルに至るまで、
妥協することなく徹底的にこだわる。
柴田さんの「わくわく」に対する純粋な気持ちが、ママたちをMaliaに引き寄せていきました。

07|Maliaという場の本質
Maliaの活動は、外から見ると華やかです。
しかし、その本質は少し違うところにあります。
柴田さんがやろうとしているのは、
「ママの力の可視化」です。
「多くのママは、能力がないのではなく、アウトプットの場がないだけ。
それなのに社会は、「子どもが優先」という環境と、その人の能力を一体として見てしまう。
本来は、環境(子育て中であること)と、能力(その人が持っている力)は、分けて考えるべきものです」
いろいろな能力を持ち、子どもを授かり幸せであるはずの女性が、
自信を失ったり、大切な我が子に手をかけてしまったりする、
その原因を考えた末にたどり着いた、ひとつの確信。
「Maliaに関わってくれた人が、いつか子どもの手が離れ社会に戻っていくときに、Maliaでやっていたことを履歴書に書けたらいいと思っているんです。
そのとき、形のあるものだから、私はこれを作りましたって、見せることができる」
組織のあり方についても、柴田さんには想いがあります。
「発行エリアや部数も増えるなか、経験者が作れば、効率的に、きれいなものができる。それも大切なことではあります。でもそれは、Maliaである必要があるの?」
みんな最初は素人だった。
それでも試行錯誤して、ゼロからひとつひとつ作り上げて来た。
そこにあるわくわく、
何かをやりたい、
自分にも何かができるはず、というエネルギー。
そうしたエネルギーが乗ったものだから、人の心を動かすことができる。
柴田さんのお話を聞いて、わかりました。
Maliaの目的は「雑誌を作ること」ではありません。
ママたち一人ひとりが本来持っている能力とエネルギーを、
社会とつなぎ、光の当たる場所に届けること。
その挑戦、そのものなのです。
08|広がりと原点
現在、Maliaは100人を超える規模となり、全国7か所に展開されています。
リアルイベントの開催や講演会、企業とのコラボ商品企画など活躍の範囲も広がり、
2026年には藤沢市の後援を受けたイベントも実施予定で、社会的な信用も広がっています。
一方で、組織としての課題も生まれています。
効率を取るのか、可能性を取るのか。
そのバランスに向き合いながら、柴田さんは活動を続けています。
そんな柴田さんに尋ねました。
孤独を感じながら雑誌をめくっていたかつての自分に、
今だったらどんな声をかけますか?
すると少し考えた後に、こんな言葉を返してくれました。
「自分にも、何かできるよ」
子育てに向き合っていた当時、柴田さん自身も、「自分は何もできない」と思っていたと言います。
そして同じように、「自分にはできることは何もない」と感じているママは多いのではないか、とも話してくれました。
でも、「できること」とは、特別なスキルや経験だけを指すものではありません。
「人に声をかける勇気」や、
「断られても気にしない性格」、
「物事に対する思いや考え」。
一見すると何でもないように見えるものも、
ひとつひとつが能力です。
自分の得意なことを生かせば、できることは必ずある。
Maliaという場所は、
かつての柴田さんと同じように、
「自分には何もない」と思っているママたちが、
「自分にもできる」ということに気づき、
次のはじまりに踏み出す力を持ちつづけるための場なのだと、感じました。
※柴田さんのインタビューをもとに作成したストーリーブックをこちらよりご覧いただけます。


